カイエ

雑感や仮想

静寂と静謐

 中央線で立川から吉祥寺へと向かう途中、三人掛けの席の中央に座ってきた女性。彼女はキャリーケースを引き下げ、それを挟むように足を広げて座った。私は左端の席にいて、彼女と微かに肩が触れ合う。車内は静かでみなひとりだ。ふと気づくと彼女はハンドタオルを手に持ち目にあてている。私は横並びになっているので彼女の顔をまじまじと見るのは憚られたが、雰囲気から推測するに泣いているらしい。これが春でなかったならば、私はそんな推測をしなかったかもしれない。彼女は鼻をすすり、静かに涙を流している。ポケットティッシュを差し出して黙って手を握る自分を想像して苦笑し実行にはうつせないまま、電車は吉祥寺に到着し私は席を立った。立ち上がり、遂に彼女を見下ろすと、やはり彼女は泣いている。目が充血している。私は彼女を思いやるタイミングを失って、躊躇しながら電車を降りた。目当ての武蔵野珈琲店に着いてからも、彼女の顔が頭から離れなかった。武蔵野珈琲は今日も静寂で静謐だった。