カイエ

雑感や仮想

桜桃忌

桜桃忌に『桜桃』を読んで太宰との訣別を決意した。「子供より親が大事」、「子供よりも、その親の方が弱い」などど、甘えている屑。だったら子供なんて作るなと思う。

自殺する人間が子供を作ってはいけない。弱い人間が子供を作ってはいけない。

今年、父親が自殺したという女に二人会った。彼女たちの悲しみはこの先も一生ついてまわり、その空虚を充たすことなど誰にもできない。到底消え去った者の穴を埋める代わりの人間なんていない。

弱くない人間なんていない。それは真理だ。だがそれを言い訳にして、新しい命を守る覚悟のないやつが、作らなければ無であったものを創造してはいけない。

命を大切にするとはそういうことではないのか。

私にはまだ、命を守る覚悟がない。新しい命も、自分の命も。

けがれなき酒のへど

自分の人生を売り物、見世物にするということが、割と一般的になってきた世の中だけれど、私小説に文体が必要であるように、確立された独自のスタイルがなければ、ひどく陳腐なものになってしまうのだろう。それは方法に自覚的になるということであり、生き方を考えるということでもある。西村賢太私小説は私に力をくれる。あくまで「私」の世界でありながら、その生命力は他者に伝播する。

いつまでも小鳥

囚われて気づくのに君は

笑われて気づくのに君は

いつまでも ひとり

いつまでも おとり

いつまでも ことり

いつまでも

 

殴られて気づくのに君は

傷つけて気づくのに君は

いつまでも ひとり

いつまでも ニトリ

いつまでも ことり

いつまでも

 

嫌われて気づくのに君は

愛されて気づくのに君は

いつまでも ひとり

いつまでも ふたり

いつまでも ことり

いつまでも

梅雨入り

あいつの顔面を血だらけになるまで鼻が折れるまで殴る妄想を何度も繰り返す。こういう気分になることが人生であと何度あるのだろう。自分の中に溜まっていく滓。いつの日か俺は犯罪者になるのではないかという恐れ。正気を保たなければならないとはわかりつつも、狂気を解放すればもっと別の世界に行けるのではないかという期待。今日はドストエフスキーを読もう。

怖い話

 欲が縦横無尽に走る。君は身動きできず目が回りそうになりながらできるだけその軌跡を追っている。どうにかしてこの喧騒から逃れようと背伸びしてみるけれど、つま先は頼りなく君自身は心許ない。

 彼が歌う神にも届きそうな歌に君は光を見る。彼は狂気と正気との狭間で身も心も削りすぎている。もうこちらの世界には戻ってこれない。それを悲しいと思っているのは僕らだけだ。

 朝四時半くらいの夏の朝。蝉が鳴き始める頃に高いところから飛び降りてみたい。朝の空気を全身に感じて、街の静寂を叩きつけるように、僕は落ちる。

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過信と猜疑の間で今日も揺れ動く

失うものなど何もないから恐れるものがないと思う

このまま金が尽きて飯も満足に食えない生活が来ると思う

追い立てられるように

突き落とされるように

私は泥の中に軀を投げ出す

予感

いつかは音もなく 羽のような軽さで

北の方へ向かう 雪の花が舞い散る

 

間違い探しを 続けるのに飽きても

答え合わせは 永遠にできなくて

 

うつる心たゆまぬように 僕は背中を触る

これが進む道だとは 誰もわからないままで

 

いつかは息もなく 水のような仕草で

地下の方へ向かう 闇の中辿り着く

 

埋め合わせを 勘違いにまかせて

いたちごっこが 永遠に終わらない

 

流す涙止まらぬように 僕は頭を叩く

これが生きることだとは 誰もわからないままで