カイエ

雑感や仮想

存在の起源

エスカレーターに乗りながら階下を見下ろすと、上がっていくにつれて小さくなっていく、幼子の寝顔があった。その幼子は、母親の手で頭と尻を支えられながら、何も怖いものがないように安堵の表情で眠っている。

安堵する、ということがどういうことか私にはわからない。少なくとも物心ついてからは、常に何かに怯え、緊張し、道化を演じ、落ち着いているかのように見せかけて、本当は人差し指でちょんと突かれれば崩れてしまう程の、脆い均衡の中にあった。

まだ赤ん坊だった頃、私は母の腕の中であのような表情を見せていたのだろうか。覚えていないだけで、天使にもおもえる無垢な光をその顔に浮かべていたのだうか。

私は子供を安堵させられる親になる自信がない。その時点で親になる資格がない。

私は反出生主義者ではない。だが論理的に考えると彼らの考えは正しいと思う。

命を大切にと言う割に、人は簡単に新たな命を創造する。

その母親の手は、美しくみえたが。