カイエ

雑感や仮想

paionia『白書』1.バックホーン

 世界史の授業中に机に突っ伏してぼんやりと窓の外を見ている。資料集を読んで歴史という物語の中に入り込むことは好きだったけれど、基本的に単純暗記が点数につながる世界史の受験勉強には身が入らず、いつの間にか科目自体も好きではなくなってしまった。窓枠から見えるのは眩しすぎる青い空と豊かな雲で、それを何も考えずただぼんやりと眺めるのが退屈な時間の過ごし方だった。

 休み時間になると、その姿勢のままイヤホンを取り出し耳にはめる。教師の声はあんなに遠くに聞こえていたのに、俺の好きな音楽はゼロ距離で耳を満たす。その音楽はTHE BACK HORNの涙がこぼれたらだったり、ゴイステの佳代だったり、チャットモンチーのサラバ青春だったりする。

 このままでは駄目だという気持ちと、いやこれでいいんだという気持ちが錯綜しながら、乾いた焦燥が確かにあることを否定できない。衝動的な気分をどこにぶつければいいのかわからずも、すべてを肯定してくれる音楽がただそこにあった。

 

 paioniaらしいコード進行がギターの硬質な音で紡ぎだされる。そこにしっかりとしたドラムが加わり、ベースのメロディアスなラインが幅を持たせる。比較的静かなAメロから溜めていたエネルギーを解放するかのように、息を一度止め、一気にサビに飛び込む。全体が各々のパートの衝動を携え熱を帯びるのに触発され、自然に体が動く。ギターソロが痛さをありありと表現しているようだ。

 空間系のエフェクトが用いられる間奏部において、その熱は一旦冷まされる。何を熱くなっていたんだとふと空を見て冷静になる。窓に対峙していた自分を思い出す。しかし尚も心身に残る疼きが顔を覗かせており、もう一度この衝動を暴力的に、無我夢中でぶつけたいという欲が溢れる。

 かき鳴らされた音に続く大サビは、あの時自分を支えてくれた音楽を思い出させる。

「まき散らせ 恥さらせ クソをクソで洗い流してやってくれ」

もしあの時この曲がイヤホンから流れていれば、俺はどれだけ救われただろうか。

 

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